On the Train (2013)

あなたは電車に乗っているとき何を思いますか。ある日、私は家へ帰る日比谷線の車中で目を閉じ(ニューヨークの地下鉄で、そのようなことは決してしませんが)、エアコンから吹いてくる心地よい風を感じながら、耳を澄ましてみました。日本人は電車の中でほとんど話をしませんし、話をしていてもうるさく騒ぐことはありません。その日は、ドアの近くに立っていた3人の大学生の楽しそうな話し声、遠くの方から赤ちゃんの笑い声、となりの中年夫婦のささやき声、そして通路を隔てておしゃべりする二人の女性の話し声が聞こえてきました。頭上を流れる笛のような風の音色、電両の共鳴、線路を走る車輪の音-それらは調和した1つの交響曲のようであり、私はいつまでも電車に乗っていたいと思いました。

東京では毎日電車に乗ります。しかしアメリカ中西部の田舎で育った私には、そのような習慣はありませんでした。私たちの町では、電車は貨物輸送のための手段であり、しかも週に数回しか運行していませんでした。乗客用の電車が停留する駅は、一番近い所でも私の家から100kmも遠く離れていました。あの頃、電車での旅行は本当に大変なイベントでした。

今でもアメリカでは電車での旅行は人気がありません。地下鉄や通勤電車が使用できるのは一部の都市に限られており、アメリカでは自動車での移動が一般的です。

日本で電車に乗ることが、いかに面白いものか理解頂けたかと思います。私にとって電車に乗ることは、ある場所から他の場所まで行くための単なる手段ではないのです。それはテレビで見るドラマのようで、しかも私たちの身近で起こっている現実のドラマであるという点では、テレビ以上に興味深いものなのです。電車に乗っている人々にはそれぞれの物語があります。この写真展では、その中のいくつかの物語をお伝えします。

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